時代を創る企業家たち 13.村田 幸洋氏

出る釘は伸ばされる

 

13村田氏村田 幸洋

大同紙工印刷(株)取締役会長(東地区)

 

 

 

一国一城の主の集まり

 一九七五年に友人の紹介で入会しました。三十五歳の時でした。私は、高校卒業後他社で修行をせずに、父親が経営する現在の会社に入社しました。それから十数年、印刷業界のことしか知らず、他の世界(業界)のことを知っておかないといけないと思っていたところでしたので、進んで入会しました。
 当社は先代が一九三五年に創業し、設備を持たない、いわば印刷ブローカーとして長らくやってきました。私は営業としてやってきましたが、これではいけないと設備を導入、自社内生産を開始して、やっと印刷業らしくなってきた時でした。
 入会してみると、さすが中小企業の経営者の集まりで一国一城の主、悪く言うと一癖も二癖もある人たちばかりで、「人と同じことをしてたら儲からん。人と違うことをやれ」と言われたものでした。
 労働待遇面でも業界自体がとても遅れており、待遇面での改善などにも取り組みました。当時社員三名の会社でしたが、共同求人活動にも参加し、若い人材を入れるようになりました。
 今日では社員数が百名を超える会社になりましたが、一九八四年に共同求人で入社した学生が今、経営幹部として頑張ってくれています。これも同友会のお陰です。

 

「人がやらないことをやる」

 私は地区会長を一度やったきりで、あまり会活動は熱心だったとは言えないのですが、同友会は「自分を磨き、企業を発展させる場」であり、「いい友人・師をつくる場」、ネットワークづくりの場だと思っています。
 一番学んだのは、「人と違うことをやる」、つまり企業の「独自性」をいかに発揮するか、中小企業はそうでないと生き残れないし、まして企業は発展しないのです。そこそこの技術・設備・資金でできる仕事は、いずれ構造不況業種になると思います。
 とかく同業の集まりというのは横並び意識が強く、出る釘は打たれる傾向がありますし、あまり独自性を発揮すると他者から疎まれることもあります。しかし同友会はまったく逆です。出る釘は伸ばされますし、周りから強く独自性の発揮が求められます。
 同友会も独自性を大切にしています。「よい経営者になろう」という他団体には見られない目的を掲げ、人間尊重の企業経営を言っていたせいか、当時は変わった団体だと見られていました。ただ、今になってみると当たり前のことになり、「異端から時代の真ん中」という言葉がぴったりと当てはまります。

 

公的施策を活用し独自技術を磨く

 さて、当社の事業内容は印刷全般ですが、紙への印刷はほとんどなく、プラスチックシート・フィルムへのUVオフセット印刷と、その印刷物の立体成型です。
 事業の転機となったのが一九八五年のUV印刷の研究開始と、八九年の本社移転とともに企画・開発部門を新設し、プラスチック材料へのオフセット印刷の企画を進めました。同友会で学んだ「独自性」をいかに発揮するかです。
 それまでの受注生産から企画提案企業に変わりたいとの想いからスタートしましたが、その為にも独自技術の開発は欠かせませんし、それに必要なのが開発資金です。
 そこで役立ったのが同友会主催の勉強会です。九三年会主催で「公的融資の制度説明会」があり、中小企業金融公庫の幹部の方と知り合い、お付き合いが今日まで続いています。
 九九年には「中小企業経営革新支援法」の承認を取得しました。愛知県で第一号だったと思います。以降、名古屋市の「創造的研究開発事業」の事業認定や○九年には「愛知ブランド企業」認定、昨年は経済産業省の「中小企業IT経営力大賞」などをいただくこともでき、今までにかなり大きな公的融資も受けることができました。村田氏
 外資系企業との取引も始まっていますが、外資系企業は国内企業以上にコンプライアンスを重視します。その点で、認定企業であることが力を発揮したりもします。
 中小企業への支援施策はたくさんありますが、意外と活用している企業は少ないのではないでしょうか。「知っていて、活用したところが得をする」のが支援施策です。

 

 

大同紙工印刷(株)本社

 

 

同友会も企業も考え方は同じ

 私が入会した七五年には会員数は五百名、現在三千名を超える愛知県下有数の経営者団体に成長してきたわけですが、やはり「人がやっていないこと」、独自性にこだわってきたことがこの発展の大きな要因だと思います。
 ただ、独自性といっても一朝一夕に発揮できるものではありません。地道な研究・開発、その為の資金も確保しないといけません。同友会も同じで、「労使見解」や「人間尊重の経営」、そして中小企業憲章の制定運動など地道な提案活動、そして常に仲間を増やしていく増強活動があってこそです。
 事務局から情報提供は日常不断に行われていますが、受け手である会員の姿勢も問われます。与えられることに慣れてしまってはダメなのです。「自分が何をやるのか」を常に考えていることが経営者の役割です。
 事務局に期待するのは、同友会らしい「企業づくり」への問題提起です。経営者自身、日常に埋没して、意外と気づかないことがあります。あまり熱心に参加していない会員でも意外と同友会からの問題提起には興味関心を持っているのです。今後とも、良質な問題提起を期待したいと思います。

(「同友Aichi」2011年7月1日号掲載)

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村田 幸洋(むらた よしひろ)氏
 1941年生まれ、1975年入会、1985年東区葵地区(当時)会長を務める。

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